第157章

田中尚哉は田中辰哉のことが心底気に入らない。だが最低限の礼儀だけは崩さず、冷えた笑みを唇の端に刻んだ。

「兄貴、ご心配どうも。会社のほうは……出てきた以上、片づけるべきことは全部片づけてきた。それに――」

視線が大島莉理へ移った瞬間だけ、ふっと目元が甘くなる。

「莉理より大事なことなんてない」

その甘ったるい台詞を、莉理は聞いていられなかった。しかも田中辰哉の目の前だ。得体の知れない気まずさがまとわりつく。

「……どうして戻ってきたの?」

辰哉は彼女の前まで歩み寄り、いつの間にか額に落ちていた柳の綿毛を指先でつまみ取った。手つきは手慣れていて、やけに自然だ。

莉理も避けない。拒...

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